ところがフェルナンブコだけじゃないーーーオーボエ、クラリネットなどに使うアフリカン・ブラックウッドも
今日(2025年11月24日)始まった第20回CoP(Conference of the Parties)に対して、ワシントン条約ーー絶滅の危機に瀕する野生動植物の国際取引に関する条約(略称CITES)ーーの最も厳しいランク(★)へ引き上げるように要望が提出されたのは、実は、弓奏弦楽器の弓の原料・フェルナンブコだけではありません。オーボエ、クラリネットなどに用いられるアフリカン・ブラックウッドもです。グラナディラ(Dalbergia melanoxylon)とも言います。
アフリカン・ブラックウッドの取引規制は、1994年の第9回締約国会議(CoP9)で見送られたのち、2017年1月2日のCITES第17回締約国会議(CoP17) で、フェルナンブコと同じ「附属書Ⅱ Appendix2」への指定が決定されました。この度の提案はそれを「附属書I 」に引き上げようと言うものです。
附属書についてもう一度、内容を確認してみましょう。
****************************************
★ワシントン条約では、絶滅のおそれがあり保護が必要と考えられる野生動植物を「附属書I Appendix1」「附属書Ⅱ Appendix2」「附属書Ⅲ Appendix3」の3つに分類しています。
現状「附属書Ⅱ 」・・・「現在は必ずしも絶滅のおそれはないが、取引を規制しなければ絶滅のおそれのあるもの」⚫️商業目的の取引は可能 ⚫️輸出国政府の発行する輸出許可書等が必要
提案「附属書I 」・・・「絶滅のおそれのある種で取引による影響を受けている又は受けるおそれのあるもの」⚫️学術研究を目的とした取引は可能 ⚫️輸出国・輸入国双方の許可書が必要
****************************************
この提案に反対するオンライン署名活動を繰り広げているサイトでは、以下のように説明されています。文中の「他の産業」は音楽産業ではない産業のことで、「過剰消費」は、おそらくは多くの場合、違法伐採や輸出だったのではないでしょうか。
- 何世紀も前から世界的に有名な管楽器メーカー——特に欧州の会社——は、他の産業がアフリカン・ブラックウッドの過剰消費をしたことで不利益を被り、この代替不可能な資源へのアクセスを失う可能性が高い。
ちなみに、ヤマハのwebサイトによると、アフリカン・ブラックウッドの主な産地はタンザニア南部とモザンビーク北部で、この資源を枯渇させないために、2015年からタンザニアでサステイナブルな森づくりが始まっているそうです。
SNSで世界と繋がっているので、ヨーロッパや北米での動きも手に取るようにわかります。今度こそフェルナンブコが「附属書I」に引き上げられそうだという話がちらほらと聞こえるようになった頃、アフリカン・ブラックウッドも同じ局面にあり、決定するとオーボエやクラリネットの製造、楽器を持った移動が困難になるという話もSNS上で見て、知っていました。
そして、ここにきてフェルナンブコについては、遂に日本でもなんとか食い止めようという動きが出てきました。ところが、なぜかアフリカン・ブラックウッドについては殆ど声は聞こえてきません・・・。どうしてなのか分かりません。「附属書Ⅱ 」になってから、そんなに経っていないので、もしかしたら関係者は「まだ大丈夫」とたかを括っているのかもしれませんし、単にわたしが情報を把握できていないだけかもしれません。
絶滅しそうな植物の保護は、もちろん実施してください。ただ、音楽という人類が数百年の時間をかけて育んできた遺産を守ることも、また必要だし、重要だと思います。優れた演奏家であればあるほど、楽器に対するこだわりも増します。道具は非常に重要です。スポーツ選手がベスト記録を叩き出すのに、どんなスニーカーでも良いはずがありません。私たち音楽家は、瞬間の芸術で勝負をしているのです。オーケストラ連盟から私が所属するオーケストラへの依頼で、所属する弦楽器奏者がメインで使っている弓の原材料の調査が行われました。もちろん100%フェルナンブコでしょう。問題なのは、わたしたちクラシック音楽界の「常識」が、世間では全く知られていない点にもあります。丁寧に説明することが必要です。伐採木が楽器用材として使用される率は、かなり低いと想像します。もし今回のCopで、提出案が採択されなかった場合はチャンスです。その時こそ、どのようにするのが最善なのかを慎重に検討して、植物の保護と楽器にまつわる技の継承を両立させるような仕組みを作ってもらえたらと思います。