Love Music
ヴァイオリンに限らず、幅広い音楽ネタです
ヴィブラートはおもしろい
ヴィブラートは、ヴァイオリンのテクニックの中でも、演奏者の個性が最も顕著に現れる技のひとつ。震える音は、演奏者の心の震えを表現しています。
ヴィブラートは、手首からかけるヴィブラート、腕からかけるヴィブラート、指先でかけるヴィブラートの3つに大別できます。このうち指先のヴィブラートを使う機会はかなり限定的で、手首か腕かのどちらかをマスターするのが標準で、場合によっては両方ともできるようにします。一般的に、手首からのヴィブラートは柔らかいまろやかな音に聞こえ、腕からのヴィブラートはダイナミックに聞こえます。
わたしは腕全体でかけるヴィブラートがデフォルトです。小学生の時、最初にヴィブラートを習ったレッスンで、先生が2種類を実演してくださって「どちらがいいかしら?」と尋ねてくださったのを今でも覚えています。でも結果的に、腕からのヴィブラートを選んで習得したというより、できるようになったのがそっちだったというのが実態のように思います。最初はなかなくうまくできなくて、先生に聞かれるのが恥ずかしくて、レッスンではヴィブラートがかけられないという程、シャイな子どもでした。
手首からのヴィブラートはなんというか、楽々と自然にかかるように見えるのに対し、腕からのヴィブラートは少し不器用そうに見えるかもしれません。なにしろ、たくさんの部分を揺らすわけですから。でもヴィブラートの幅(広く、狭く)、速さ(遅く、速く)の調節もできますし、特に不自由はありません。こう書いていて気がついたのですが、手首のヴィブラートよりも多くの関節を使うわけですから、より柔軟に体を使えることが条件かもしれません。左の腕の肩からの入れ具合は、かなり影響すると思います。指を指板に置く角度もそれで変わるので。指ごとのヴィブラートのかかり方の落差はない方がいいのですが、人の手は不思議で、同じ手の形をしている人はいません。指が手についている向きも、ひとりひとりかなり異なります。だからこそ、ヴィブラートをかけ易い向きにして指を指板に置くことが重要で、ここは自分で自分の演奏を検証し、改善していく必要があります。コツコツと積み重ねることこそが、ヴァイオリンの上達の秘訣です。
また、ヴィブラートは、基音から下に向かってかけます。ヴィブラートとは、そもそも音程の揺れですから、波打つように聞こえます。でも波があまりに不規則に揺れると、船酔いしたみたいになって、聞く人に不安感を与えます。良いヴィブラートは、どんなに揺れても芯があります。この芯こそ、規則性であり、コントロールです。
ただ、コントロールはできる/できないと単純に分けるのではなく、水彩絵の具のように、無限大のヴァリエーションをつけたいのです。このレベルの要求が自分の中に湧いてきたら、結構いいです。そのまま精進して(練習も楽しく遊びながら?)、どんどん進めてください。
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ヴィブラートは、本当にひとりひとり違っていて面白い!速い人、遅い人、柔らかい人etc. 本当にその人の個性です。意図して違いが出てくるものではなくて、自然と湧き上がってくるものなので、余計におもしろいです。
さて、わたしの好きなアーティストにPrince(1958-2016)がいます。代表作Purple Rainで彼の存在を知った時は、なんだか風変わりな人?曲?だなと思ったのを記憶しています。だって歌詞は、ちょっと朗誦風で、何度も何度も”Purple Rain”を繰り返すだけなんです。朗誦の部分は、もちろん聞き取れなかったので、どうやっても”Purple Rain”ばかりの曲に聞こえるわけです。紫の雨?(^^;; しかも歌手のお兄さん、紫のスーツ着てバイクに乗っているという、あまりに独特すぎる世界・・・お近づきになれなさそうだったので、当時はのめり込むこともなく終わりました。マイブームが始まったのは、この2、3年です。あるとき、ふとPrinceを思い出して、聴き始めたのがきっかけです。マイケル・ジャクソンやマドンナと同時期の大スターだけど、彼らほど知られておらず過小評価されていますが、そんなことは関係なく楽しんでいます。
最近、YouTubeの自動再生で聴いて、ぶっ飛んでしまったのが以下の曲です。ビートルズの曲で、ビートルズに熱中したであろうアーティストたちが、おじさんになって、みんなで少年時代に戻って楽しんで演奏しているいかのような動画です。
“While My Guitar Gently Weeps” with Prince, Tom Petty, Jeff Lynne and Steve Winwood
3:29あたりで登場するプリンスのギターソロが凄過ぎて衝撃!プリンスのギターで、まさにギターが泣く(weep)!gentlyではなく、激しいのは、乱れる心中を表現しているでしょう。
プリンスのギターのテクニックは本当に素晴らしい!!ものすごいヴィルトゥオーゾで、ヴィブラート、グリッサンドなどの音程の変化、タイミング、どこまでも超人的。そしてそれを魅せるパフォーマーとしての才も、まさにgiftです。giftはその人に備わっていなければ、それはそれで諦めるしかないのですが、テクニックなら努力で何とか身につけられるかもしれない。今日も練習がんばろう!!前進あるのみ!よいGWを!
While My Guitar Gently Weeps
I look at you all see the love there that’s sleeping
While my guitar gently weeps
I look at the floor and I see it needs sweeping
Still my guitar gently weepsI don’t know why nobody told you
How to unfold your love
I don’t know how someone controlled you
They bought and sold youI look at the world and I notice it’s turning
While my guitar gently weeps
With every mistake, we must surely be learning
Still my guitar gently weepsI don’t know how you were diverted
You were perverted too
I don’t know how you were inverted
No one alerted youI look from the wings at the play you are staging
While my guitar gently weeps
Cause I’m sitting here doing nothing but aging
Still my guitar gently weepsPurple Rain
I never meant to cause you any sorrow
I never meant to cause you any pain
I only wanted one time to see you laughing
I only want to see you laughing in the purple rainPurple rain, purple rain
Purple rain, purple rain
Purple rain, purple rainI only want to see you bathing in the purple rain
I never wanted to be your weekend lover
I only wanted to be some kind of friend
Baby, I could never steal you from another
It’s such a shame our friendship had to endPurple rain, purple rain
Purple rain, purple rain
Purple rain, purple rainI only want to see you underneath the purple rain
Honey I know, I know, I know times are changing
It’s time we all reach out for something new
That means you too
You say you want a leader
But you can’t seem to make up your mind
I think you better close it
And let me guide you to the purple rainPurple rain, purple rain
Purple rain, purple rainIf you know what I’m singing about up here
C’mon, raise your handPurple rain, purple rain
I only want to see you, only want to see you
In the purple rain神戸市室内管弦楽団への市からの補助金打ち切りニュースを聞いて想うこと
先月、神戸市は2027年度をもって室内オケへの補助金を打ち切る方針というニュースが駆け巡りました。そして、同団体の音楽監督の鈴木秀美さんの会見が昨日開かれ、神戸市民に質の高い音楽を提供し続けたいとおっしゃって、存続を訴えたというニュースが今日報じられました。
市が問題視したのは、楽団の集客力の低さ。集客力はいつも、文化芸術活動の価値を計る物差しと考えられます。「集客力」は、販売実績と言い換えることもできるでしょう。これは、多くの人がお金を払うものにこそ価値があり、そうでないものには価値がない、という考えに基づいています。
神戸の室内オケのニュースが報じられた直後に、2023年10月末に老朽化のために閉場して以来、建て替え工事が手づかずのままになっている国立劇場についてのニュースも報じられました。再開場は当初は29年に予定されていましたが、建築資材の高騰などの理由で建て替え工事の入札が2度不調に終わり、33年度の再会場を目指しているとのこと。3度目の入札が公告されたそうです。
もう2年半、閉場したままになっても、関係者や国民のなかのごく一部に過ぎないファンしか困っていないのだから、このまま再開場しなくてもいいじゃん!という声や、チケット売れないオーケストラは潰れちゃってもいいじゃん!と考える方もとても多いのでしょう。
そうそう、そう言えば、文化庁が、国立の博物館や美術館に対して、自己収入(入館料やグッズ販売利益)を増やすように数値目標を定めた、というニュースも確か3月初旬に報道されました。企画展などで自己収入額が40%を下回り、「社会的に求められる役割を十分に果たせていない」と判断した場合、「再編」の対象になるとか。。。
最悪の場合、オケが溢れる東京都のような環境ではない一地方からプロオケが姿を消し、国立劇場はずっと閉館、国立美術館や国立博物館はしょぼくなる。はぁ?なんと見事な政策なんでしょう。日本、輝きそうですね(もちろん嫌味で言っています)。
その昔(2009年末)、民主党の鳩山政権下「事業仕分け」というものが行われて、その時に文化予算が削減されたことを思い出しました。当時、著名な音楽家たちが会見を開いて反対意見を述べたのですが、その時にピアニストの中村紘子さんが言った言葉が忘れられません。「芸術はお金がかかるんです!」。実は、中村紘子さんがこう言い放ったことに、わたしはちょっとギョッとしてしまったのです。その説明でみなさん、納得してくれるのだろうか・・・と。一般人の感覚とあまりにもかけ離れていて、そんなことを言ったら、かえって逆効果なのではないかと。
その後もずっと音楽家を続けて、今振り返ってみると、中村紘子さんが言ったことは正しかったと思うようになりました。お金をかけないで、人を感動させるようなステージ、展示なんて、絶対にできません。そもそもお金以上に時間(時間というと語弊があるかもしれませんが、ステージを成功させるために費やす熱量とでも言いましょうか)がかかっています。時間をかけないで(つまり音楽なら、ちょっとしか練習しない、リハーサルも最低限で、ということになる)、人を感動させることなんて絶対に無理。これは、例えば国際的に活躍する音楽家や美術家など、上のレベルの仕事をしている人ほど、強く思っていることです。例えばピアノの天才はいとも容易く演奏しているように見えます。でも、世間で天才と思われている人ほど、毎回の本番にかける熱量は大きいのです。人生の全てをかけているでしょう。「時は金なり」と申しますが、そうやって費やした時間・熱量をどうやったらお金に換算することができるでしょうか。また、人を感動させられるステージを作れるような演奏を披露するには、その準備ができる環境があることが必須です。要は、毎日の練習のための時間や場所を確保できる、ということです。片手間に練習するのでは、プロと言えるようなステージはできません。そう考えると、やはり中村紘子さんがおっしゃった通り、「芸術はお金がかかるんです!」
でも、例えば自分が会社の社長だったとして、こうした論理が通用するかと言うと、きっとそうではない。いくら人生かけたって、血の滲むような努力をしたって、買ってもらえないものは人に必要とされていない、もし販売利益以外の効果があるのだとしたら数値をはっきりさせろ、というのが経営者の論理だと思います。
ここでひとつ見えてきたことがあります。つまりは、こうした経営者の論理(市場原理と換言できるでしょう)で、国政や地方行政の方向が決められているということです。これに対しては、わたしは異論を唱えます。
太平洋を挟んだ向こう側の大きな国の大統領が、しっちゃかめっちゃかやっていますが、この方も「儲かれば何でもいい」「自分が得すれば何をしてもいい」というような発想ですね。極端な例ではありますが、その先にあまり良い世界が待っているようには見えません。
文化庁が行っている事業には、子どもたちに文化芸術体験の機会を与えることを目的としたものがあります。でも本当は、文化芸術の体験の機会が欲しいのは、子どもだけではないのですよね。大人だって、そうした機会があったらいいなと思っている方、沢山いらっしゃると思うのです。日本が成熟した社会になかなか変わっていかないのは、目先のことばかりで判断してしまう傾向が強いからかもしれません。
政治は、会社経営よりもっと大きなヴィジョンが必要でしょう。人々の暮らしを実質的に豊かにするだけでなく、精神的にも豊かにしていくことが、政治の目的であって欲しいと思います。でもここで敢えて、国を大きな会社と仮定してみるならば、福利厚生がなっていない会社は、社員にとって魅力がありません。お金を稼ぐための労働の場でしかないでしょう。
ここ最近、街を歩くと、みんな労働者に見えてしまいます。公園で楽しそうに過ごしている人を見ても、労働の合間の休憩時間を過ごしているかのように、私の目に映ることがあります。こうしたことが何かを象徴しているかのように思うのは、私だけでしょうか。
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最後に、件の神戸市室内管弦楽団の名演をひとつご紹介したいと思います。
大澤壽人作曲《ベネディクトゥス幻想曲》(1944)。山田和樹指揮・神戸市混声合唱団。2023年5月19日神戸文化ホールでの演奏会。
大澤壽人(おおさわひさと 1906-53)は当初独学で作曲した。日本には作曲を専門に学べる学校がなかったために、ボストンに留学して作曲を正式に学び、そのあとパリでもエコールノルマル音楽院に通い、名教師ナディア・ブーランジェの個人レッスンを受けた。ボストンでもパリでも、大成功を収めている。ところが帰国したのは二二六事件の直前、太平洋戦争に突入する時代が近づいていた。そもそもクラシック音楽は国民のごく一部でしかない、ハイソサエティやインテリの「娯楽」であった上に、西欧の最新の作曲技法が用いられた大澤の音楽は、斬新過ぎて人々に求められなかった。
《ベネディクトゥス幻想曲》は、1944年5月に完成された。オーケストラと、ヴァイオリン独奏、合唱という非常に珍しい編成で、演奏には30分弱かかる。この時期の日本では、同盟国のドイツやイタリア以外の洋楽は「敵性音楽」として禁止されていたが、そもそもオーケストラの演奏会など、口にすることも憚られただろう。上演される当てなど全くないこの曲を、大澤はどのような気持ちで作曲していたのだろうか。
第20回Copでのフェルナンブコの件
ウズベキスタンで2025年11月24日から12月5日までの間に開催されたCOP20(ワシントン条約第20回締約国会議)で、フェルナンブコは附属書2にとどまることが決まりました。
ひと安心ですが、注釈が改定されて、これまでより厳しくなりました。改定された規定は、90日後に施行されます。
外務省のwebサイトには、「附属書IIに留めた上で、注釈を改訂し、商業目的の取引を禁止し、また完成品の非商業目的の輸送のみ適用除外とすることが明記された。さらに、当該種の国際的な管理体制を関係各国が構築することを求める決定が採択された。」とあります。
International Alliance of Violin and Bow Makers for Endangered Speciesのwebサイトに、実に様々な情報が掲載されています。この問題について、よく知りたい方はご覧になってみてください。新しく加わった条件も説明されていますが、英語で分かりにくい部分もあるので、ちょっと意訳します。
• Musicians will be able to travel with their Pernambuco bows without permits when crossing borders for performances, repairs, and other activities that do not result in a change of ownership.→「Musicians」は演奏活動や修理、その他の活動をする目的で国境を越える時に、許可証なしで、フェルナンブコが用いられた弓を携行していいが、弓の所有者を変更することは認めない。【つまり、音楽家が弓を持って外国に行っても良いけれど、行った先でその弓を売ったり、譲渡したりしてはいけない】
• Specialized permits will be required for all international sales of existing and new bows, requiring proof that the wood was harvested before the species was first CITES listed in 2007.→既存、新作に関わらず全てのフェルナンブコの弓を国際的に売買するには、特別な許可を得なくてならない。その許可申請には、2007年(この種がCITESに記載された年)以前に伐採されたフェルナンブコで作られた弓であることの証明が必須となる。【つまり、その弓に使われているフェルナンブコが、2007年以前に伐採されたと証明できない場合は、国際販売の許可はおりない。証明できる弓の場合も、国際取引には許可証の取得が必須】
• Global governments and musical instrument stakeholders will partner on actions to strengthen legal compliance, develop an identifying system for available wood and bows, and support a sustainable future for the species.→各国の政府と楽器関係者は、法令遵守を強化し、利用可能な木材や弓を識別するシステムの開発や、将来的にこの種の存続の実現を支援するための活動において、協力しあうこと。


こちらからCOP20の討議の資料を閲覧できます。
ちなみに(弓になる前の)フェルナンブコ材の商取引は「従来通りの商取引が継続」(『サラサーテ』2026年2月号40ページ)だそうです。
演奏する人たちにとっては、これまで通り弓を持って自由に移動できるという点で、とても良い結果。厳しくなったことで、弓の値段がますます上がりそうなのは遺憾。弓職人さんは、国内市場だけをターゲットにしている方はともかく、国際市場をターゲットにしている方(例えばヨーロッパの製作者)は、2007年以前の用材だと証明しないと国外で販売できないことになるので、大変そうです。やはりこのような不安定な状況では、製作技術の伝承が危機に瀕していると言って良いと思います。日本では近年、かなり優れた弓が製作されるようになりましたが、売られている弓の割合としては外国製の弓が多いのが実情です。日本のディーラーさんは仕事が増えそうです。
細かいことを言い始めるとキリが無くて、国よって国内法が異なったり、自分が「Musician」と証明できるか?ナドナド、弓を持って海外渡航する方はご用心ください。日本の常識が、海外では通用しないことは多々あります。私の場合、「Musician」と証明することは、それほど難しくないように思いますが、渡航先の国内法はどうなのか心配になってしまいます。象牙の印鑑を今でも買えることから推測すると、もしかして日本は国内法が割と緩め?渡航先の国の国内法を把握することは、さすがに難しいでしょうから、どうか皆さまもお気をつけてください。
今の時代、文化を守ることの難しさは増すばかり。フェルナンブコの問題は弦楽器奏者としては大変悩ましい問題でしかありませんが、自分が置かれている立場からだけでなく、様々な角度から見つめ直すことで、社会の中の存在としての音楽家や音楽産業の従事者の在り方を根本から問い直す、ひとつの契機になるように思います(と言うより、そうでも思わないと、やっていられません‥)。
2026年のはじまり もうすぐコンサート!
みなさま、明けましておめでとうございます。お正月はどのように過ごされたでしょうか?
私はこちら、1月11日の「コンサートに行ってみようvol. 5 初夢ヴァイオリン名曲コンサート🎵」残すところ一週間で、お正月もへったくれもない!という状況でございます。


練習に没頭しているだけでなく、レクチャーのためのお勉強もしなきゃ‥と、そわそわした日々です。今回は、カフェやサロンで演奏された音楽の特集コーナーを設けたのですが、1920年代、30年代のカフェやサロン音楽の情報を集めるのは大変!情報の少なさに唖然としております。ステータスの高い人たちの、お遊びの場の話なのですが、日常的なイベントの話って、なかなか歴史に残らないのです。
素晴らしいピアニストのラファエル・ゲーラさん。共演させていただくのは10年以上ぶり。12月の最初のリハーサルの前はドキドキしましたが、リハーサルが始まったら、自然とひとつの音楽が生み出されていき、言葉ではなく音で会話が始まりました。まるで音楽の玉手箱を開いたようで、「何も心配いらなかったんた…」と安堵しました。今回、ソロも一曲演奏してくださいます。
またプレコンサートでは、物井友子先生がソロをご披露してくださいます。去年大盛り上がりだったショパン国際ピアノコンクールにちなんで、ショパンの名曲「華麗なる大円舞曲」と「革命のエチュード」です。ふたりのヴァイオリンの演奏者も、準備ばっちりです!
3日に兄の一家が遊びに来ることになっていたので、2日の夜にチーズケーキを焼いておきました。かなり良さげな焼き加減‥一晩冷蔵庫で寝かせて、昨日みんなで食べたら絶品😋お褒めの言葉を沢山もらいました。来年も作っちゃおうかな!
ともあれ、2026年、ひっくり返ったような世界の秩序が安定することを祈っています。子どもたちが楽しく毎日を送れる世界になりますように。

ところがフェルナンブコだけじゃないーーーオーボエ、クラリネットなどに使うアフリカン・ブラックウッドも
今日(2025年11月24日)始まった第20回CoP(Conference of the Parties)に対して、ワシントン条約ーー絶滅の危機に瀕する野生動植物の国際取引に関する条約(略称CITES)ーーの最も厳しいランク(★)へ引き上げるように要望が提出されたのは、実は、弓奏弦楽器の弓の原料・フェルナンブコだけではありません。オーボエ、クラリネットなどに用いられるアフリカン・ブラックウッドもです。グラナディラ(Dalbergia melanoxylon)とも言います。
アフリカン・ブラックウッドの取引規制は、1994年の第9回締約国会議(CoP9)で見送られたのち、2017年1月2日のCITES第17回締約国会議(CoP17) で、フェルナンブコと同じ「附属書Ⅱ Appendix2」への指定が決定されました。この度の提案はそれを「附属書I 」に引き上げようと言うものです。
附属書についてもう一度、内容を確認してみましょう。
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★ワシントン条約では、絶滅のおそれがあり保護が必要と考えられる野生動植物を「附属書I Appendix1」「附属書Ⅱ Appendix2」「附属書Ⅲ Appendix3」の3つに分類しています。
現状「附属書Ⅱ 」・・・「現在は必ずしも絶滅のおそれはないが、取引を規制しなければ絶滅のおそれのあるもの」⚫️商業目的の取引は可能 ⚫️輸出国政府の発行する輸出許可書等が必要
提案「附属書I 」・・・「絶滅のおそれのある種で取引による影響を受けている又は受けるおそれのあるもの」⚫️学術研究を目的とした取引は可能 ⚫️輸出国・輸入国双方の許可書が必要
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この提案に反対するオンライン署名活動を繰り広げているサイトでは、以下のように説明されています。文中の「他の産業」は音楽産業ではない産業のことで、「過剰消費」は、おそらくは多くの場合、違法伐採や輸出だったのではないでしょうか。
- 何世紀も前から世界的に有名な管楽器メーカー——特に欧州の会社——は、他の産業がアフリカン・ブラックウッドの過剰消費をしたことで不利益を被り、この代替不可能な資源へのアクセスを失う可能性が高い。
ちなみに、ヤマハのwebサイトによると、アフリカン・ブラックウッドの主な産地はタンザニア南部とモザンビーク北部で、この資源を枯渇させないために、2015年からタンザニアでサステイナブルな森づくりが始まっているそうです。
SNSで世界と繋がっているので、ヨーロッパや北米での動きも手に取るようにわかります。今度こそフェルナンブコが「附属書I」に引き上げられそうだという話がちらほらと聞こえるようになった頃、アフリカン・ブラックウッドも同じ局面にあり、決定するとオーボエやクラリネットの製造、楽器を持った移動が困難になるという話もSNS上で見て、知っていました。
そして、ここにきてフェルナンブコについては、遂に日本でもなんとか食い止めようという動きが出てきました。ところが、なぜかアフリカン・ブラックウッドについては殆ど声は聞こえてきません・・・。どうしてなのか分かりません。「附属書Ⅱ 」になってから、そんなに経っていないので、もしかしたら関係者は「まだ大丈夫」とたかを括っているのかもしれませんし、単にわたしが情報を把握できていないだけかもしれません。
絶滅しそうな植物の保護は、もちろん実施してください。ただ、音楽という人類が数百年の時間をかけて育んできた遺産を守ることも、また必要だし、重要だと思います。優れた演奏家であればあるほど、楽器に対するこだわりも増します。道具は非常に重要です。スポーツ選手がベスト記録を叩き出すのに、どんなスニーカーでも良いはずがありません。私たち音楽家は、瞬間の芸術で勝負をしているのです。オーケストラ連盟から私が所属するオーケストラへの依頼で、所属する弦楽器奏者がメインで使っている弓の原材料の調査が行われました。もちろん100%フェルナンブコでしょう。問題なのは、わたしたちクラシック音楽界の「常識」が、世間では全く知られていない点にもあります。丁寧に説明することが必要です。伐採木が楽器用材として使用される率は、かなり低いと想像します。もし今回のCopで、提出案が採択されなかった場合はチャンスです。その時こそ、どのようにするのが最善なのかを慎重に検討して、植物の保護と楽器にまつわる技の継承を両立させるような仕組みを作ってもらえたらと思います。
【Cop20の結果はこちらからhttps://enaviolin.com/2026/01/05/第20回copでのフェルナンブコの件/】
ユニフィルの定期演奏会!曲目解説を書きました
先月19日に行われた東京ユニバーサル・フィルハーモニー管弦楽団第44回定期演奏会に出演しました(長年、第一ヴァイオリンの団員を務めさせていただいています)。曲目は、バーバー「弦楽のためのアダージョ」、ベートーヴェン「ピアノ協奏曲第3番」と「交響曲第6番 田園」。バーバーは、もしかしたら弾くの初めてか、ずっと前に弾いたかも?という感じでしたので、先ず自分の練習で、1から曲に向き合うことから始めました。とは言っても、やはり人数の少ない弦楽だけの合奏なので、音の作り方やフレージングをセクションでまとめることが大事です。そして、演奏会当日はホールの音響に合わせて、調整することも必要です。かなり思いっきり弾くことになりました。

ユニフィルの定期演奏会のプログラム掲載曲目解説を、今回初めて書かせていただきました。タイトルは「神への祈り、そして賛歌で締めくくる大胆不敵な試み」。アメリカの近代作曲家バーバーで幕開けて、メインの2曲をベートーヴェンという組み合わせは結構珍しいのではないかと思ったのですが、こんな意図があったかな〜と想像しながら書きました。

先日、バーバー作曲「弦楽のためのアダージョ」の動画公開の知らせが届きました。是非視聴してみてくださいね!
ヴァイオリン・ヴィオラ・チェロを弾く人みんなの危機(4)〜フェルナンブコと弓製作者と音楽家の未来
ベルリンフィルのホームページに、先日、第二ヴァイオリン奏者のエヴァ・マリア・トマシEva Maria Tomasiさんのインタビュー記事(https://www.berliner-philharmoniker.de/stories/fernambuk-interview-mit-eva-maria-tomasi/)が掲載されました。このインタビューは、フェルナンブコを巡る現状について、エヴァさんが語ったもので、余談ですが、エヴァは、私が留学中にエキストラ出演させていただいていたザルツブルグ・モーツァルテウム管弦楽団のコンサートマスター マルクス・トマシMarkus Tomasiさんの妹さんです。ご兄弟はザルツブルグ出身で、マルクスは最近退団しましたが、エヴァはまだベルリンで頑張っていて、世の中にこんなに沢山ヴァイオリニストがいるのに、誰も触れないかに見えるこの話題について彼女が声を上げたことを、とても誇りに思いますエヴァ素敵
以下は、エヴァのインタビュー記事「Zwischen Baum und Bogen」から抜粋です。読みやすさを優先したので、多少意訳した部分がありますことをご了承ください。また記事で言及されている、国際ペルナンブコ保護イニシアティブ(the International Pernambuco Conservation Initiative、略称 IPCI)は活動資金の支援を募っていますが、日本ではなかなか入手しにくい情報なので、このブログの一番下に記しました。
エヴァのインタビュー「Zwischen Baum und Bogen Eva-Maria Tomasi im Gespräch über Fernambuk」
フェルナンブコが弓に使われるようになった経緯は?
バロック時代の弓は全く異なる形状でした——(今の弓とは逆に)外側に半円を描くようにカーブが付けられていました。当時の弓は、弓毛の張りは親指で調節する仕様になっていました。時が経つにつれ、弓はさらに進化しました。その過程で重要な役割を果たしたのがフランソワ・ザビエル・トゥールテです。1775年頃、彼は現在も知られる弓の形を確立しました:凹面形状で、現在も変わらない特定の長さ、そして弓を張るためのネジ付きのフロッグを備えたものです。
トゥールテ以前に、弓はsnakewood, amourette、yewの木材で作られることが多かったのですが、しかしトゥールテは、フェルナンブコが理想的な弓に必要な全ての特性——密度、強度、張力、同時に弾力性と柔軟性——を備えていることを発見しました。この長所全てを網羅した木材はフェルナンブコしかないので、そのあと約250年間にわたって、ほぼ全ての高品質な弓にフェルナンブコが使われてきました。現在はカーボン製の弓が製造されるようになりましたが、品質面では全く比べようがありません。

親指で弓の張り具合を調節する様子。以下のサイトから転載させていただきました。
https://www.baroquemusic.org/barvlnbo.htmlフェルナンブコが危機に瀕していることは、最初にいつ認識されたのか?
フェルナンブコは数世紀にわたり減少を続けています。住宅建設用資材に用いられ、比較的少量が弓製作用に回されています。1970年代に最初の植林プロジェクトが開始され、約300万本のフェルナンブコの木が植樹されました。2007年、フェルナンブコの木材はCITES(ワシントン条約)の保護対象に指定されました[後略]。
音楽業界はどのようなアクションを起こしたのか?
1999年に、国際ペルナンブコ保護イニシアティブ(the International Pernambuco Conservation Initiative、略称 IPCI)が設立されました。ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団も支援しているIPCIは、ブラジル、北米、ヨーロッパの会員によって設立された非政府組織で、フェルナンブコの在庫の保護、持続可能性の確保、再植林の促進、違法取引防止を活動の目的としています。IPCIの主導により、新しくフェルナンブコの木を植樹することや、研究プロジェクトが長年進行中しています。IPCIは、既存の弓を引き続き使用しながら、保護下で栽培されたフェルナンブコ材を用いた新しい弓を製作していけるように取り組んでいるのです。こうした方法が将来実現可能かどうかは分かりませんが——明らかに音楽家とオーケストラにとって極めて重要な問題です。
今、わたしたちはどうするべきなのか?
絶滅しそうな木がここにある。そう聞いたとき、その種の存続を守ることは私たちの使命だと、多くの人は考えます。私もその一人だし、エヴァも、弓に携わる音楽業界人誰しもが思うことでしょう。問題は、弓を使って楽器を奏でることが、多かれ少なかれ種の存続を脅かすことに繋がってしまったことです。だからと言って、フェルナンブコの弓で弾かない将来なんて、考えられません。ただ、私の世代の演奏家にとっては、フェルナンブコの弓は既に持っていて、もう買う必要がないので、海外に行く時くらいしか問題になりません。演奏旅行も楽器パスポートを取得すれば可能ではあるでしょう。一番大きな影響を受けるのは、これから弓を買う子どもや若手音楽家たち、そして長い目で見ると、何ランクも下の音しか出ない弓で奏でられた音を聴かされる聴衆の人たちだと思います。クラシック音楽の音が変わってしまうのです。
しかし弓の原料として使ったことが、この種が絶滅の危機にあることの最大の理由ではないようにも見えるのです。何が問題だったのか、何が今の問題なのかを、遠い日本で把握することは、とても難しいです。日本人がヴァイオリンを弾き始めてから、まだ(もう?)150年くらいしか経っていませんし、まさに地球の裏側にある国で起きていることで、言語も文化も違うブラジル特有の深い事情があるのではないでしょうか‥‥つまり、よく分からないことを考えても何も前に進めない、というのが多くの人が共有する現状だと思います。
エヴァは「今何をすべきでしょうか?」という問いに、次のように答えています。「私は、現在最も必要なのは可視性だと考えています。何が問題なのか、政治に対して明確に伝える必要があります。多くの人は、これを単に種の保護問題だと捉え、当然支援したいと考えています。私たちも同じです。問題は、どのように保護するかです。私たちは単に、さまざまな選択肢とその影響について議論することを求めているだけです。」ここでエヴァは「可視性」についてあまり具体的に話していませんが、これが「深い事情」の部分だったりするのでしょうか。
いずれにしても、フェルナンブコの絶滅の危機の問題と、規制引き上げによって降りかかってくる問題を、一緒に論じようとすると難しいですね。植樹しても、弓の原料が取れるようになるまで30年くらいかかると聞きました。規制を引き上げるとしても、注釈付きで、楽弓の運搬と製作については例外措置を設けることはできないのでしょうか?そして、植樹によって確保したフェルナンブコの商業取引は許可にするとか。また、危惧されるのは、フェルナンブコの規制が一旦引き上げられたら、そのあとも半永久的に続くのではないだろうかという点。「種の存続の問題がある程度解決したら緩和する、目標はXX年間」というような目安があれば、文化の継承者たちの受け止め方も違ってくるような気がします。
私がここで文句(?)を言っても何の解決にもなりませんが、長年継承されてきた文化の重みというのもあるはずですから、弓製作技術保護と継承についてもちゃんと目配りしてもらえないものでしょうか?人類が何百年かけて育んできた文化はそっちのけで、動植物保護の観点からだけで政治が動いてしまっているのは、完全な片手落ちなのではないかなぁと思っています。両立させられないのは、結局政治の力不足なのかもしれないですね。
★国際ペルナンブコ保護イニシアチブへの募金について★
この団体の存在は全く知らなかったのですが、フランスの有名な弓製作者Pascal Camurat氏がSNSに投稿していて、なんとなく知るようになったのが最近です。エヴァのベルリンフィルの記事にはドイツのIPCIのリンクが貼ってありましたが、ドイツ語だけ。他の言語でなければ日本人には敷居が高いので、他の国のIPCIのウェブサイトを探してみました。英語がわかる方はアメリカのIPCIかカナダのIPCI、フランス語がわかる方はフランスのIPCI、ドイツ語の方はドイツのIPCIのホームページから辿ってみてください。お支払いには、paypalやクレジットカードが使えるシステムになっています。
沢山お金を払ってフェルナンブコの弓を買うか、フェルナンブコ以外の木材の弓(こちらも連鎖的に値上がりするかも)を買う、それ以外の人はカーボンの弓を買うというのが第一段階に起きて、そのあとは、否が応でも、カーボンがスタンダードになる、と予想しています。
弓弦楽器を弾くあなた、これでいいですか??
CITESの185の加盟国による国際会議は、今年(2025年)11月24日から12月5日まで。それで規制強化が決まったら、3ヵ月後くらいには証明書を携行しなくてはならなくなりそうだから、ヨーロッパに行くなら2月くらいまでがいいかなー🤔と考えています。
そしてもうひとつ、気になっていることがあります。。。
ヴァイオリン・ヴィオラ・チェロを弾く人みんなの危機(3)〜外国に弓を持っていけない⁈
規制が強化された場合、演奏する立場の人が受ける影響は、①国際間の移動に、弓を携行するのが難しくなる、②価格が高騰してしまう、の2点です。
「外国に弓を持っていけない⁈」、ううん、きっと大丈夫。ただ、すごーく面倒なことになるようです。経済産業省に「楽器パスポート」、つまり『日本国楽器証明(申請)書 Musical instrument certificate』を発行してもらって、国境を越える度に税関職員に提示‥ う〜ん、空港には早めに、トランジットの時間は長めに計画しないといけないですね。経済産業省の許可証発行所はお仕事増えて、なにより空港税関職員の方々が、とても忙しくなります。弓奏弦楽器持った人全員にケース開けさせて、フェルナンブコの弓かどうか確認するのでしょうか。でも一体、見分けられるのかな‥。そもそもフェルナンブコ以外の弓も、大抵フェルナンブコと見た目は似ています。検査の場でフェルナンブコではないと証明できない場合、もしかしたら没収などということにならないか、ちょっと不安です。
でも弓の高騰や国際間の移動より、もっと心配していることがあります。
弓製作が魅力のない仕事になり、製作技術の継承が危ぶまれることです。
長くこの仕事をされている方は、良質の用材を確保しているようです。でも、これからの人は?職人の仕事って、始める時も、続けるのにも、夢があってこそなのではないかと思うのです。
「ヴァイオリン職人」と言いますが、職人さんは楽器を専門にしている人と、弓を専門にしている人がいます。その両方が、大抵は楽器のメンテナンスや弓の毛替えの仕事も請負いますが、全員がそうという訳ではありません。また、楽器専門の職人さんヴィオラやチェロも作り、弓職人さんも、ヴァイオリンの弓だけを作るのではなく、ヴィオラやチェロの弓も製作します。
だから、フェルナンブコの問題は当然、弓職人さんにのしかかってきます。象牙ダメ、フェルナンブコもダメ、まだまだ他にも(くじらのヒゲも?)禁止されたり、入手しにくい用材があって、がんじがらめになったら良い仕事できないどころか、この仕事をしたいという人が出てこなくなるに違いません。
現代の弓の始祖フランソワ・トゥルテ、ドミニク・ペカットと言った19世紀の弓作りの巨匠、20世紀に入るとユージン・サルトリ‥ 信じられないサウンドを引き出す弓です。こうしたアンティークの弓(いつかペカット欲しい!!でも千万はゆうに超えるので夢でしかありませんが)と、現代の作家の弓は、かなりクオリティに差があるのは事実です。でも、現代の作家にも、アンティークのフレンチ弓に負けず劣らず凄い弓を作る人がいます。本当に、ファンタスティック!そうした製作者が存在することが、どれだけ私たちの助けになることか‥
フェルナンブコを巡る問題、見方を変えて、この点に注目して欲しいと切に願います。
もうちょっとこの話題を続けます
ヴァイオリン・ヴィオラ・チェロを弾く人みんなの危機(2)〜フェルナンブコ規制強化で弓が高騰
フェルナンブコのワシントン条約規制引き上げが決定した場合、ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ‥‥そして忘れてはいけません、コントラバスも!、演奏する人にどのような影響があるのでしょうか?プロ・アマチュア問わず、どのような影響を受けるかについて、考えてみました。今回は、既に起きていることについてお話しします。
弓の価格の高騰です。昨今の弓の価格の高騰は普通ではありません。コロナ危機や円安の影響が考えられますが、円安のせいだけにできないのは間違いありません。ユーロ圏でも弓の価格が高騰しているからです。
弓に関心を寄せる人たち(ディーラー、コレクターetc.)にとって、ワシントン条約のフェルナンブコ規制強化の話題は、最新のニュースでもなんでもありません。前回のCopの会議(2022年)の前に情報が駆け巡り、彼らは遅くともその時点で知っていました。いずれ規制が強化されると誰もが想像し、既に完全に身構えています。これぞという一本を買いたいと思っている人は、もし気に入った弓を見つけたら、多少高くても買えるうちに買っておくのが賢明だと考えるわけです。楽器屋さんは、例え仕入れ値が上昇しても、売れる商品は取り扱うのが商売です(やや品薄なのは、買い控えているようにも見えますが、実はお店の奥にあるのではと邪推したくなります)。日本に住む購入者にとっては、とんでもない円安(7月から€1=170円台が続いています)も価格にのしかかり、明るい兆しは残念ですが全く見えません。出来ることと言えば、円安が終わって価格に反映されるのを待つ・・・いえいえ!今年末にワシントン条約の規制引き上げが決定すると、日本の業者は海外から仕入れることができなくなるので、そのあと円高に転じたとしても、その時はもうレートがどうであろうと関係のない世界です。また、そもそも弓の「円高還元セール」は滅多に企画されないと思います。元々高級品で、一部の「どうしても買いたい」人が相手なので、そこまで無理に売らなくていいからです。
ただ一部には、もし規制が引き上がった場合に、弓の価格が逆に下落する可能性もあるのではないかという見方もあります。私の意見では、その可能性はないと思っています。絶対的に質が高い商品でも、ニーズがなければ相場は落ちます。でもニーズがあれば、相場を下げる必要がひとつもありません。ましてや弓は消耗品で、弾けば弾くほど状態が悪くなります。つまり、コンディションが良い、質の高い弓は自動的に失われていく運命です。それが顕著なのがオールドフレンチなどの名弓です。現在も優れた弓を生み出す製作者がいますが、やはり19世紀から20世紀初頭にかけて活躍した製作者たちによる名弓にはなかなか敵いません。
演奏に用いられて、くたびれた弓が増えるということは、未使用や新品に近い状態の弓は減る一方ということです。そのため、時を追うごとに後者の希少価値は上がっていきます。どうして弓の価格の高騰一辺倒なのか、理由をお分かりいただけるでしょう。
唯一、弓に対するニーズがあるのに、フェルナンブコの名弓の価格が落ちるとしたら、フェルナンブコを上回る素材が登場した時です。もっとも、それでも「いいものはいい」ので、価値は保たれるような気がします。見よ、伝統の力。
この話題、まだまだ続きます。
ヴァイオリン・ヴィオラ・チェロを弾く人みんなの危機(1)〜弓の用材・フェルナンブコがワシントン条約の最も厳しい規制対象に!?
ヴァイオリンの弓はご覧のとおり、木の棒=スティックに馬の尻尾の毛が張ってある形状です。スティックの質は弓の良し悪しを決める最も大きな要素と考えられていて、最上の素材はブラジル原産の「フェルナンブコ」です。希少価値のある高級材で、優れた弓は全てフェルナンブコで出来ていると言って過言ありません。ヴァイオリンだけでなく、ヴィオラもチェロも同様です。実は今、このフェルナンブコが輸出入禁止になってしまうかもしれない事態に陥っています。もしそうなってしまうと、弦楽器を演奏する人、弓を作る人・売買する人は大打撃を受けて、クラシック音楽の世界が大なり小なりひっくり返ってしまうかもしれません。演奏を聴いて楽しむクラシックファンの方々も、ゆくゆくはその煽りを受けてしまうと思います。
長い年月伐採が続けられ、フェルナンブコは絶滅の危機に瀕して、保護が必要な事態に陥りました(違法伐採、密輸取引されたとの噂も)。植林などの努力もされましたが、国際的な規制が必要と考えられるようになり、2022年、ブラジル政府はフェルナンブコ材に関する規制を、ワシントン条約、つまり絶滅の危機に瀕する野生動植物の国際取引に関する条約(略称CITES)の最も厳しいランク(★)へ引き上げるように要望しました。最も厳しいランクとは、象牙と同じで、原則的に輸出入は一切禁止というものです。そして、2022年11月末に開かれたCITESの185の加盟国が会する国際会議(Conference of the Parties /略称CoP)で審議されました。
この時、引き上げは見送られて、胸を撫で下ろしたのは私だけではなかったと思います。でも、いつか近いうちに、また同じ問題が起きるとずっと心配していたのです・・・そして遂にその時が来てしまいました。
この6月、同じ提案がブラジル政府から出され、今年(2025年)11月24日から12月5日にかけてウズベキスタンで開催される第20回CoPで再び審議されることになりました。もし、この案が可決されると、フェルナンブコ材でできた弓の商業目的の国際取引は禁止となり、海外渡航時に持ち運ぶにはCITESの許可証が必須となります。一口に海外渡航と言いましたが、観光旅行から、演奏旅行、留学や引っ越しまで含めた全てで、具体的には渡航前に許可証を取得して、出国と入国の時に税関で提示しなくてはいけなくなります。
つまり平べったく言うと、
商業目的の国際取引が禁止→フェルナンブコ材の弓の輸入は禁止。だからフェルナンブコの弓は、国内にあるものをグルグル回して売り買いすることになる。
海外渡航→事前に許可証を申請して(許可が下りて、許可証を発行してもらえたら)国境をまたぐ時はいつも税関に行って許可証を見せることになる(出国時・入国時の両方で、要はパスポートコントロールのようなもの。EUの中での移動はどのような扱いになるのかは分かりません)。
許可証申請に際しては「条約適用前に取得したもの」の証明が必要で、「じゃあ領収書があればいいじゃん!」と思うかもしれませんけれど・・・フェルナンブコが使われていることが大前提なので(使われていなかったら許可証を発行する理由がない)、そのアイテムに規制対象種が用いられていることを製作者や専門家が証明した書類が必須です。これはかなりハードル高いと思うのです。イメージとしては鑑定書だと思いますが、種名や原産国が記載されている必要があるはずです(このあたりは特に重要だと思うので、必ず各自ご確認ください)。種名の表記は、ワシントン条約の附属書で用いられた種を特定する用語(例えば、パンダは「 Panda」ではなく「Ailuropoda melanoleuca」)でなくてはならないでしょう。「条約適用前に取得したもの」である証明と、対象種名・原産国などの情報の証明・・・結構大変そうです。
でもちょっと待って!メディアの情報の精度がいまひとつ不安なので、念のため第19回Copの審議内容を確認してみたいと思いました。行き当たったのは日本の外務省のサイトです。そこには以下のように書いてありました。
「ブラジルボク」:ブラジルから、注釈(旅行オーケストラや決議16.8に基づく楽器パスポートを所持する独奏者を除く、楽器の弓を含むすべての部品、派生品及び完成品)をつけて附属書IIから附属書Iへの移行を提案。議論の結果、附属書IIのままとした上で、注釈について、「完成品の再輸出は適用除外」とすること、ブラジル政府の違法対策に協力するための決定が採択された。」
今回ブラジル政府から提出された案がこれと同じなら、音楽家は↑ここに書いてある「楽器パスポート」、つまり『日本国楽器証明(申請)書 Musical instrument certificate』を取得すれば良いのです。日本で発行してくれるのは経済産業省です。詳しくはこちらをご覧ください。でもこれもとても面倒くさそう!この時点で「じゃあカーボンの弓でいいか・・・」と諦める人が続出すると思います。。。
この話題、とても大事なことなので、このあとも続けます。
ヴァイオリン・ヴィオラ・チェロを弾く人みんなの危機(2)〜フェルナンブコ規制強化で弓が高騰

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★ワシントン条約では、絶滅のおそれがあり保護が必要と考えられる野生動植物を「附属書I Appendix1」「附属書Ⅱ Appendix2」「附属書Ⅲ Appendix3」の3つに分類しています。フェルナンブコについては以下の通り。
現状「附属書Ⅱ 」・・・「現在は必ずしも絶滅のおそれはないが、取引を規制しなければ絶滅のおそれのあるもの」⚫️商業目的の取引は可能 ⚫️輸出国政府の発行する輸出許可書等が必要
提案「附属書I 」・・・「絶滅のおそれのある種で取引による影響を受けている又は受けるおそれのあるもの」⚫️学術研究を目的とした取引は可能 ⚫️輸出国・輸入国双方の許可書が必要
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※ 出来る限り正確な情報を記すように心掛けていますが、万が一、ここに書いた情報に誤りがあったり、誤解を招いてしまうなどして、どなたかの不利益となることがあったとしても、著者は一切の責任を負いません。ワシントン条約は非常に重要な厳守すべき国際ルールだと認識しています。そして、大切な弓にかかわることです。必ずご自分で経済産業省などの関係機関に問い合わせて、くれぐれも慎重にご対応されるようにどうかよろしくお願いいたします。 梶野絵奈